2017年06月 / 05月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫07月

--.--.-- (--)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2008.03.06 (Thu)

【世界の香ばしき国々】第44回:沿ドニエストル・モルドバ共和国(Part5)

◆仁義無き税関論争

沿ドニエストル政府の公式声明によれば、この国は非承認国家ながら約100ヶ国との貿易があるという。海に面しておらず大規模な港湾施設を持たないこの国が貿易を行うとなれば、陸路でモルドバかウクライナを経由するしかない。
敵対関係にある沿ドニエストルとモルドバはお互いに相手国からの輸入品に対してべらぼうな関税を掛けていることから、この国の輸出入の殆どはウクライナ経由で行われていると推測できる。実際、ティラスポリではモルドバ製品を殆ど見かけなかった。

モルドバ政府はトランスニストリア/ウクライナ国境を通過する貨物に対して何の手出しもできない。自国領と主張しているトランスニストリアに出入りする貨物に対して、一切の税関検査ができず、1レイの関税も取れないのだ。モルドバ政府による税関検査が行われていないことから、EU諸国やアメリカは「沿ドニエストル政府は密輸業者とグルになり、国境でまともな検査を行わずヤバいブツをウクライナへ流している」と主張している。
「ヤバいブツ」ってのは、可愛いところなら密輸タバコ、ほんとに凄いものになると武器弾薬や人身売買の被害者となった女性など。トランスニストリアが「密輸の巣窟」と言われる所以はここにある。


モルドバと沿ドニエストル両国は1992年の和平協定続き、1997年に『モルドバとトランスニストリアの関係標準化に関する指針(通称:モスクワ・メモランダル)』という協定を結び、両国民の生活に支障が出ないよう、可能なレベルでの関係正常化を実現した。
簡単に言うと「すぐに解決できる問題じゃないから、とりあえず現状を維持しましょう。強硬姿勢を取って国境を封鎖したりするとお互いに困るから、支障の無い範囲で交流しましょう。両国間に存在する問題については、周辺国も交えてこれからゆっくり話し合いましょう」という内容。

この協定に関する交渉が行われていた頃、モルドバ政府は沿ドニエストル政府が行う輸出入に対して関税を掛けず、さらにそれらの貨物にモルドバ政府が通関作業を行ったことを証明するシールの使用を許可し、代わりにトランスニストリア/ウクライナ国境に共同で税関事務所を設置してモルドバ政府の役人を置くことを提案した。「実を捨てるから、少しは名を持たせてくれ」というモルドバのささやかな抵抗である。
この案を受け入れればトランスニストリアを出入りする貨物に対してモルドバ政府のお墨付きが与えられる訳で、沿ドニエストルは「密輸業者の巣窟」などと罵られずに済む。沿ドニエストル政府はこの提案を受け入れることにした。

ところが、この悪党どもは協定をすぐに反故にし、色々と理由をつけては最後までモルドバ税関の職員を入国させなかった。普通ならモルドバ政府が激怒して協定を破棄しかねないところだが、どういう訳か当時のモルドバ大統領ペトル・ルチンスキは動かず、沿ドニエストル政府はまんまとボロ儲け。ロシアやウクライナ等と同様にハイパーインフレに見舞われてガタガタだった国内経済の建て直しに成功した。
ルチンスキ政権が協定を破棄しなかったのは、協定が守られようが破られようがどのみちトランスニストリアの貨物から関税を取れないことに加え、大統領本人を含む政権関係者の多くがモルドバよりも景気の良いトランスニストリアでサイドビジネスをやって小遣いを稼いでいたからと言われている。

沿ドニエストル・ルーブル
沿ドニエストル共和国の通貨「ドニエストル・ルーブル」



しかし、2004年末のオレンジ革命によってウクライナ大統領が親露派レオニード・クチマから親米派ヴィクトル・ユーシェンコに代わると、トランスニストリア経済の雲行きは一気に怪しくなった。
親露派クチマはロシアの子分である沿ドニエストル政府に対しても比較的好意的な政策を取っていたが、反露・親米を掲げるユーシェンコは同じく反露的なモルドバの共産党政権とタッグを組み、さらにEUやOSCEの主張を受入れてウクライナ政府の姿勢を一転させたからだ。

ウクライナはトランスニストリアを相手に年間2億7,000万US$(約300億円)の貿易を行っていたことから、当初は様子見の姿勢を取っていた。しかし、300億円の取引を失ってもEUやモルドバに協力したほうが、後々WTOやEUに加盟する際に有利になると判断して態度を変えた。
さらに、トランスニストリアのウクライナ系住民(彼らの殆どはウクライナの市民権を持っている)は殆どが親露派であり、ユーシェンコの支持者ではないことも影響した。

一方、モルドバは長年続く国内経済の疲弊に国民がブチ切れ、2001年の総選挙によって共産党が大躍進、党首のウラジミール・ヴォローニンが大統領に就任した。モルドバ共産党はロシア語の公用語化やロシアとベラルーシによる連合国家への参加など親露的な政策を掲げていたが、モルドバの援助元が米独蘭日+IMFであることに加え、2003年にロシア政府がトランスニストリア問題に対する新しい協定(『コザック・メモランダル』)においてモルドバにとっては屈辱的とも言える譲歩を迫ったことから、ヴォローニンはロシアの横暴に腹を立て反露色を強めていた。


反露・親EUでタッグを組んだモルドバ&ウクライナは、早速沿ドニエストルを締め上げにかかった。2006年3月、ウクライナ政府はモルドバ税関当局の証明書があるものに限り輸入を認め、そしてモルドバ政府の役人が駐在する国境を通過する場合にのみ輸出を認めることを宣言した。事実上の経済封鎖である。
すかさずモルドバ政府はキシナウとティラスポリを結ぶ鉄道の線路上にコンクリート・ブロックを置いて封鎖し、アメリカやEUは「沿ドニエストル政府は、毒ガスや汚い爆弾(核爆発はしないが、放射性物質を周囲にまき散らす)を搭載できるロケットをテロリストに密売している」とインチキくさい報道を行って援護した。

成す術が無い沿ドニエストル政府はロシアに泣きついたが、沿ドニエストルとロシアは国境を接していないので直接的な支援はできない。そこで、ロシアは沿ドニエストルに対して一ヶ月当たり4,000万US$の経済支援を行った他、モルドバへの報復として「重金属が混入している」という理由でモルドバ産ワインの輸入禁止措置を発動した。
今度は外貨を稼げる輸出製品がワインくらいしか無いモルドバが悲鳴を上げることとなり、ダブついた在庫を買い叩いた中国が「これで我が国は美味しいワインに当分困らない」と高笑いすることとなった。モルドバ、格好悪過ぎ。
一方のウクライナはユーシェンコ政権ができて以来、ロシアとの仲は最悪の状態。この件で特に嫌がらせはされなかったものの、この数ヶ月前にロシアから天然ガスの供給を止められて欧州中を巻き込む大騒動を起こしている。


このように何かとロシアへ依存している両国が、あの情け容赦無い恐怖の大統領ウラジーミル・プーチン率いるロシアと全面対決するのは得策ではない。そこでモルドバ政府は「手続を簡素化して税金もマケてやるから、こっちの輸出管理制度に従ってくれ」と沿ドニエストル政府に秋波を送ったが、こんなものを受入れればトランスニストリアの企業は両国に対して二重に法人税と関税を支払うことになる。
この経済封鎖によって輸出に頼るトランスニストリア経済は急激に悪化し、沿ドニエストル政府によれば1日当たり200~250万US$の損失が発生したという。

スミルノフ政権が外交下手なせいで「沿ドニエストルは密輸の巣窟」という印象が定着してしまい、ウクライナ&モルドバによる「我々は経済封鎖をしているのではなく、密輸を取り締まっているだけなのだ」という詭弁がまかり通り、アメリカやEU諸国は「これによってトランスニストリアを経由する武器密輸や麻薬密売、人身売買を取り締まることができる」と両国を支持する声明を出した。
沿ドニエストル共和国はまるで『諸悪の根源』のような扱いを受けている。

後にEUとOSCEも加わって「EUBAM」なる組織が作られ、今日までトランスニストリア/ウクライナ国境の監視を続けてきた訳だが、その間に武器や麻薬、売り飛ばされた女性など全く見つかっていない。捕まったのは個人で麻薬を密輸しようとしたモルドバのクサレ警官くらいなものである。
もし仮にヤバいものを運ぼうとするなら、審査が緩いモルドバ国境へ向かうはずであり、当たり前に検査するウクライナ国境なんかわざわざ通るわけが無いのだ。イラク戦争同様、後になってから「証拠はありませんでした」なんてことになった場合、トランスニストリアが被った損害は誰が補填するのだろうか?

※モルドバ/トランスニストリア国境は他の国境と比較して審査が緩い。トランスニストリア市民は沿ドニエストル共和国発行のパスポート(古いタイプのものは「CCCP」と書かれている凄い代物)で行き来できるし、係官はパスポートの写真をチェックするだけでスタンプも押さないし荷物も検査しない。モルドバ政府がそこを正式な国境として認めていないことに加え、人やモノの流れを考慮した両国が手続きを簡素化しているからだ。一方、沿ドニエストルのパスポートではウクライナに入国できないし、ひと通り検査される。
CCCPなどと書いてある香ばしいパスポートではモルドバくらいにしか行けないので、トランスニストリア市民の殆どはモルドバやロシア、ウクライナのパスポートも持っている。ロシア政府はティラスポリに領事館を開設し、ロシア系住民にパスポートを発行してモルドバ政府を怒らせている。

EUBAMによる国境監視
EUBAMによる国境監視

関連記事
23:53  |  沿ドニエストル共和国  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://powerpopisland.blog68.fc2.com/tb.php/285-943503ef

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。