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2008.02.20 (Wed)

【世界の香ばしき国々】第43回:沿ドニエストル・モルドバ共和国(Part4)

◆トランスニストリアの政治

紛争に勝利した沿ドニエストル共和国は実効支配を確固たるものとし、1995年に憲法を制定する。
憲法では国民主権、民主主義、基本的人権、言論と宗教の自由、私有財産制が保障されており、他国と比較しても特におかしな部分は見当たらない。特徴としては外交中立路線が明記されていること程度か。実際はロシアの傀儡なのだが。
法令なんて運用次第でどうとでもなるとはいえ、少なくともあからさまに狂った憲法を掲げている訳ではない。国連加盟国でもキチガイみたいな憲法を掲げている国は多数あるし、サウジアラビアのように成文憲法が存在しない国もあることに比べれば、全然普通。


国家元首は大統領で任期は5年。準大統領制を導入している他のNIS諸国とは異なり、大統領が首相機能も兼ねている。人口55万の小国に大統領と首相を別個に設ける余裕など無いのだろう。
どうせなら「総統」と名乗ればいいのに。

イーゴリ・スミルノフ大統領多選を制限する規定は無いようで、1991年以来イーゴリ・スミルノフがその職を務めている。
スミルノフは1941年生まれでペトロパブロフスク=カムチャツキー出身のロシア人。長年ウクライナに住んでいたが、1987年にティラスポリにある電子機器工場の工場長としてこの地にやって来た。1989年になるとスラヴ系住民や国営企業幹部の支持を元にモルダビアSSRの人民代議員(国会議員に相当)として政界に進出、1991年4月にはティラスポリ市人民代議員会議議長(市長に相当)に就任した。
そして、その年の9月に沿ドニエストルが独立宣言を行うと、スミルノフは共和国最高会議の暫定議長(大統領に相当)に選出され、さらに12月の選挙で勝利して大統領に就任した。以後、1996年、2001年、2006年の選挙でも勝利し、現在4期目。

モルドバの中では工業化が進んでいる地域を実効支配しているとはいえ、非承認国家であるこの国は諸外国からの援助を受けられない。モルドバは先進国やIMFから様々な援助を受けているのに、この国にはその金がビタ一文入ってこないのだ。
そんなハンディの中でこの国の経済を遣り繰りした手腕を評価する人がいる一方、「ロシアの威を借りて独裁者として君臨し、一族で利権をむさぼる政治マフィア」と糾弾する人もいる。
スミルノフは息子ウラジーミルを税関委員会委員長(税関部門のトップ)に据えて輸出産業関連企業から金をむしっている他、エネルギー関連企業や銀行といった国内有力企業に自分の一族を送り込んで利権を貪っている。この国にもカザフスタンやウズベキスタンと同じ腐敗が存在するのは間違いない。


こんな怪しい国だが、複数政党制による民主的な政治が(少なくとも形式上は)行われており、形式的要件すら満たしていないトルクメニスタンやウズベキスタンよりはるかにマトモだったりする。
沿ドニエストル共和国最高議会(国会)は一院制で議席は43。このうちの6議席はロシアやウクライナ等周辺諸国の代表が務めるという珍しい仕組みを採用している。
現在、議会は与野党が逆転しており、スミルノフ大統領率いる与党『共和党』が13議席、国会議長のエウゲニー・シェフチュク率いる野党『革新党』が23議席を、残りの1議席を「社会民主党」が保有している。共和党が比較的緩やかな経済改革を目指しているのに対し、財界を支持基盤とする革新党は完全な自由主義的経済の実現を目指している。
いずれの政党もモルドバに対するいかなる主権移譲にも反対しており、モルドバとの再統一を支持する団体は国内に全く存在しない。

こういう翼賛体制の匂いがするから、「少なくとも形式上は」なんて書き方になってしまう。この国では、黙っている分には不当に弾圧されることは無いし、政治や言論の自由もある程度は存在する。しかし、国是に反することを言おうものなら、途端に当局から凄まじい圧力を受けることになるのだ。
その証拠に、2001年にはモルドバとの再統一を訴えていた政治家が逮捕されて死刑判決を受けている。西欧諸国の人権擁護団体が一斉に激しく抗議したことから死刑は撤回されたが、この国の民主主義なんて所詮この程度。
他にも沿ドニエストル共産党支持者が公共料金の値上げや国営企業の売却に対して抗議デモを行ったところ、共産党幹部が逮捕されて拘置所にブチ込まれている。「俺たちの生活を守れ!」と抗議しただけで逮捕されちゃうのだから恐ろしい。ソ連が大好きなくせに、相手が共産党でも容赦無し。


しかし、色々と問題はあれど全体的に見れば、この国はモルドバ政府やOSCEが言うほど悪党ではない。アフリカの失敗国家(スーダン、コンゴ民主共和国、ソマリア、赤道ギニアなど)のように市民を虐殺したり餓死させている訳ではないし、国民の生活は本物の貧乏国に比べたら全然レベルが高い。
だが、この国は国際社会に対するアピールが非常に下手で、スマートな立ち回りができない。ただでさえ「正体不明の不気味な国」と思われているのに、不器用なせいで余計に印象が悪く見える。
よせばいいのにスターリンを賛美してみたり、バルト三国で住民弾圧に関与した罪で指名手配されている元KGB幹部を匿ったりするから、『欧州のブラックホール』などと不名誉なあだ名をつけられるのだ。すると上層部は西欧諸国に不信感を持ち、外国人の滞在時間を制限してみたり、秘密警察を使って外国人を監視するから、なおさら印象が悪くなる。
おかげで沿ドニエストル政府の要人はEUやアメリカから出入り禁止を喰らい、今では東スラヴ三ヶ国(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)くらいにしか入国できないお前らはルカシェンコか。 (※3)

※3:アレクサンドル・ルカシェンコ
ベラルーシ共和国大統領にして「欧州最後の独裁者」の異名を持つハゲ。強権的な政治と香ばしい言動が原因でアメリカやEU諸国に出入り禁止になった。
ユーモラスな外見と頭の悪そうな発言から、筆者の界隈では絶大な人気を誇る。


モルドバは経済はまるでダメでもその辺の情報戦に長けており、外交下手の沿ドニエストル政府とは対照的。
今のモルドバでは戦争をしても勝ち目が無いし、そもそも貧乏過ぎて戦争すらできないので、沿ドニエストルに対して様々な情報工作を行っていている。「沿ドニエストルは独裁者が君臨する圧制国家で、密輸や人身売買の巣窟」といったプロパガンダを撒くのが主たる活動だが、他にもトランスニストリアにエージェントを放っては何やらコソコソと動いている。


エウゲニー・シェフチュク議長スミルノフ大統領の評判があまりよろしくないのに対し、トランスニストリアに強い報道機関や研究者の間ではシェフチュク議長の評判は良い。スミルノフが国家元首にも関らずあまり表に出てきたがらないのとは対照的に、シェフチュクは旧西側からの取材に対して嫌がることなく対応しているせいなのかもしれない。
シェフチュクは1969年生まれの若い政治家。弁護士の資格を持ち銀行や企業の経営に携わっていたが、財界からの支持を受けて2000年に国会議員となった。すると、当時の最高会議議長グレゴリー・マラクツェによっていきなり副議長に抜擢され、さらにシェフチュクが2005年の選挙で再選されると、マラクツェは彼に議長の座を譲り渡した。

シェフチュクは西側で暮らした経験こそ無いものの、ロシアで経済学を学び、市場経済の中で育った実業家である。ソ連時代の国営企業の工場長あがりで、実務には長けていても経済に疎く、諸外国相手にスマートな立ち振る舞いのできないスミルノフとは対極に位置する政治家と言える。
シェフチュク自身も、スミルノフが経済や外交に疎く、そのせいで自国が「欧州のブラックホール」などと呼ばれる羽目になっていることに少なからず不満を覚えているようだ。
彼の率いる「革新党」は議会で単独過半数を占めており、トランスニストリア経済を牛耳る一大企業集団「シェリフ・グループ」と強いつながりを持っている。もしかすると、政府に干渉されず自由に商売できる環境を求めるシェリフ・グループが、シェフチュクを支援して国会へ送り込んだのかもしれない。

このように彼は人脈も金も押さえている訳で、いつでも大統領選に出馬できそうな気配なのだが、不思議なことに2006年大統領選に出馬しなかった。
若手政治家の筆頭シェフチュクならば、1991年以来15年以上の長きに渡り権力の座に居座るスミルノフに勝てるかもしれない。しかし、国を二分する激しい選挙戦になることは避けられず、複雑に絡み合う周辺国の利害にも影響を及ぼすことは間違いない。何せロシアしか頼れる国が無いのだから、ロシアから支援を取り付けることができなければ、仮に選挙に勝っても国が立ち行かなくなることは明白だ。
そう考えると、シェフチュクはスミルノフから大統領の座を禅譲されるのを待っているのかもしれない。次の大統領選は2011年、スミルノフは70歳になっているが、シェフチュクはまだ42歳。若い彼なら2011年どころか、2016年までだって待てる。


《Part5につづく》

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