2007モルドバ・ウクライナ旅行記(その18)

◆ワターシノ名前ハ「ボラット」デース!

待合室でヘレンを待っていると、挙動不審な男女がやって来た。意味も無く辺りをウロついたりベンチで寝転がったり、とにかく落ち着きが無い。内心、嫌だなぁと思っていると、男がこちらにやって来て話しかけてきた。浅黒い肌を持つ20代前半の男で、一目でジプシーだと分かる。でもアロハシャツなんか着てるので、ハワイの原住民に見えないこともない。
「おまいは旅行者か?」という問いに、イクラちゃんばりに「ダー」と答える。続いて、だとだとしいロシア語で「ワタシ、モルドバ、観光キタ。コレカラ、ウクライナ、イク」と言う。
しかし、無理してロシア語で返答したのが仇となった。男の次の一言がにゃおんちゃんを奈落の底に突き落とす。

「おまい、カザフスタンから来たのか?」

中国人の次はカザフ人認定かよ!

確かに、カザフ人やキルギス人は日本人みたいな顔をしている人が多い。日本人と中国人の違いが分からないモルドバ人に、日本人とカザフ人を見分けることなどできるわけがない。そう、たどたどしいロシア語を喋ったせいで、にゃおんちゃんはカザフ人だと思われてしまったのだ。彼の脳内では「ロシア語を話す東洋人=カザフ人」なのだろう。


人生初のカザフ人認定に一瞬気が遠くなったにゃおんちゃんだが、やられっぱなしではない。カザフスタンと言えば、もちろんあの人。ナザルバエフ大統領?いや、違う。

「My name is Borat. I come from Kazakhstan! Jak sie, masz!」

そう、ボラットだ!偽者カザフ人だが、今世界で一番有名なカザフ人はこの人!
本物のボラット同様、たどたどしい英語で自己紹介をする。このジプシーの兄ちゃんは俺のことをカザフ人だと思っているのだ。彼の夢を壊したら可哀想ではないか。
男は上機嫌な様子で「俺はジプシーで、ソロカから来た」と言う。あー、にゃおんちゃんはそのソロカか帰って来たばかりだが・・・余計なことは言わないでおく。だってこの男、にゃおんちゃんの荷物が気になるようで、視線や挙動が怪しいんだもん。まともに相手しないほうがいいな。
しかし、暇なので少しからかってやることにする。

「お前、カザフ人のくせにロシア語分からんのか?」というツッコミに焦るが、「カザフ人はロシア語が下手なのだ」と言い張る。本物のボラットよろしく、ジプシーをネタにした危ないジョークを2発ばかり披露するが、相手は殆ど英語が分からない人なので見事にすべる。
ギャグがすべったときの気まずい雰囲気に言葉の壁は無いらしく、逆ににゃおんちゃんのほうが変な奴と思われて、男は引きつった笑顔を浮かべながら去っていった。

カザフ人認定された挙句、変な奴に変な奴だと思われるとは何たる屈辱。

最後に、両手を合わせておじぎをしながら「チンクイエ!」と言って奴にトドメを刺す。
わーっはっは、見事に撃退したぞ。



◆哀愁のキシナウ

そうこうしているうちにヘレンがやって来た。ターミナル周辺には何も無いので、街中まで戻ってメシを食いに行く。が、この頃になると本当にグッタリしていて食欲も無く、サラダを食っておしまい。少し歩いただけでヒィヒィ言ってるにゃおんちゃんを見かねて、ヘレンがビタミン剤を買ってくれた。モルドバ・レイを使い果たしてしまい、金が無かったのだ。
ヘレンよ、何から何まで本当にすまん。

金が無くて何もできないので、22時過ぎにバスターミナルに戻ることにする。バスの出発は24時だが、そんな遅くまで彼女を付きあわせては申し訳ないので、バス代を渡して彼女を帰宅させる。本当に色々と世話になった。ありがとう、ヘレン。
彼女の友達が教授相手に金をせびったことを、言うべきか否かずっと悩んでいたが、結局最後までそのことには触れなかった。ヘレン自身、彼女のことを親友とは思っていないようだったし、第三者であるにゃおんちゃんが余計なことを言わないほうがいいと判断したのだ。


へレンが去り、一人バスターミナルに残ったにゃおんちゃんは、夜行バスで一夜を過ごすことに備えて服を着替える。ここまでは常にジーンズとブーツでパリッとキメていたが、ここで初めて半ズボン&サンダル姿に変身する。
うーむ・・・どこからどう見ても薄汚いバックパッカーだ。セレブな旅を目指していたのに。

23時56分、ついにキシナウを去るときが来た。このオデッサ行き夜行バスは、モルドバの南端にあるパランカという村を経由する便なので、沿ドニエストル共和国領は通過しない。
バスはほぼ満員で東洋人はもちろんにゃおんちゃんただ一人。でも、そんなにジロジロ見られない。長距離を走る夜行バスなので、シートも倒れるしエアコンもちゃんとある。これなら大丈夫。日本じゃこんなことは当たり前だが、こっちのバスは本当にボロいので、実は心配だったのだ。

オデッサ行きのバス
「キシナウ - パランカ - オデッサ」と書いてある。左上の数字は発車時刻。


キシナウの街を出るとき、ヴィリニュスを去るときに夜行バスの窓から見た風景を思い出した。あの時は後ろ髪を引かれる思いで、ひどく感傷的になっていた。ヴィリニュス、本当に大好きな街だったから。
え?俺、また感傷的になってる?キシナウなんか好きじゃないのに、どうして?その理由を探して考えごとをしていたが、疲れきっていたにゃおんちゃんはいつしか眠りに落ちた。ぐー・・・さようなら、キシナウ・・・また来るのか、俺?・・・ぐー・・・。

目が覚めると、そこは国境手前だった。時間は午前2時。
バスを降りるが、周りには何もありゃしない。出国手続きで渋滞しているようで、周囲にはたくさんバスや車が停まっている。モルドバ各地からオデッサへ行くバスが殆どだが、中にはキシナウからキエフのポリスポール空港へ行くバスもあった。何せキシナウ空港はローカルだからねぇ・・・。こんなバスがあるなら、ブカレストのみならずキエフもモルドバ旅行の拠点に使えるね。
まぁ、わざわざモルドバなんぞに行く価値があるかどうか、それはまた別の話だが。

午後3時過ぎにモルドバを出国。係官がバスに乗り込んできてパスポートを回収し、事務所に持ち帰ってスタンプを押してから返却するといういつものパターン。トラブルは一切無し。
そこから数km走ると、今度はウクライナの入国手続き。2年前に来たときとは異なり、今回は出入国カードを書かされた。用紙はバスに乗り込む際に運転手から配布され、既に記入してある。英語の表記もあったので、記入は楽勝。
ところが、こっちはさらに渋滞が酷く2時間も待たされた。走っている時間よりも待っている時間のほうが長いのはいかがなものか。待ちくたびれて寝ていると、係官に叩き起こされて飛び起きる。寝ぼけていたので、思わず日本語で「はいっ!」と返事をしてしまった。


8月23日(木)午前5時過ぎ、にゃおんちゃんは2年ぶりにウクライナへの入国を果たした。
今回の旅行で、陸路で通過する国境はここのみ。厄介な場所を無事通過して、少しホッとする。


【旅の情報:モルドバ/ウクライナ国境編】
・キシナウからオデッサまでは直線距離にして約150km。普通なら2〜3時間で行ける距離。しかし、その間に立ちふさがるのは悪名高き沿ドニエストル共和国。幾多の旅行者を泣かせてきたロクデナシ国家だ。国境でトラブるのは嫌でしょ?
・そんなあなたにお勧めするのが、パランカ経由のバス。沿ドニエストル領を経由しないでオデッサへ行ける。所要時間は昼は12時間、夜は6時間。なんでそんなに違うのかって?そりゃにゃおんちゃんも知らん。運賃は68MDL。
・バスの出発時刻は、ターミナルの時刻表によれば10:10、10:30、21:40、21:50、22:47、22:57、23:56となっているが、いまいち当てにならんので窓口で確認することをお勧めする。
・もちろん、普通にベンデール、ティラスポールを経由してオデッサヘ行くバスも多数ある。
・一時期は線路が封鎖されていたが、ティラスポールからウクライナやモルドバへ行く列車が走っていたので、現在は鉄道でも行ける模様。


《つづく》

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