2007モルドバ・ウクライナ旅行記(その10)

◆沿ドニエストルの戦い(前編)

モルドバ市内を発ったバスは南へと進路を取り、キシナウ国際空港の前を通ってティラスポールへと向かう。空港の前を通った際、「偽ソ連なんて怖い国に行くのは止めて、ここから飛行機に乗ってこのまま帰っちゃおうかな?」という考えが一瞬頭をかすめたのは内緒。
15人乗り程度のマルシュルートカは満員。外国人はもちろんにゃおんちゃんだけだが、誰も話しかけて来ない。時々乗客と目が合うが、「あーあ、この何も知らない哀れな外国人は、国境で金を巻き上げられて酷い目に遭うんだろうなぁ。可哀想に・・・」と思われているような気がして、気分が激しく萎える。さっきまでの前向きな精神はどこへ行ったのやら。

そんなにゃおんちゃんの葛藤などお構い無しにマルシュルートカはモルドバの田舎道を爆走する。窓の外にはトウモロコシ畑やら牧草畑が広がっている。
キシナウを発ってから40〜50分ほど経過しただろうか。いよいよ国境にやって来た。道路にはコンクリート製のバリケードが置かれており、物々しい雰囲気を醸し出している。やがてバスが止まると、軍服姿の男が乗り込んできた。地元民は車内でパスポートを検査されるのみだが、にゃおんちゃんは車から降ろされる。ひぃぃぃ、いよいよ極悪国境警備隊との戦闘か。


車を降りると、そこには貨車を改造した掘っ立て小屋があり、数名の軍人が日陰でくつろいでいる。そしてひとりの軍人が「あんた、ロシア語分かるか〜?」と陽気に話しかけてくる。えー?何でこんなに和やか?と一瞬戸惑うが、よく見ると彼らの着ている軍服はモルドバ軍のもの。ああ、ここはモルドバ側の出国手続きをする場所か。
行き先、渡航目的、日帰りか否かを聞かれ、あとはパスポートを見せて終了。モルドバ政府はここを正式な国境と認めていないので出国スタンプは押さず、にゃおんちゃんの名前やら国籍やらパスポート番号やらをノートに書き写した後、返してくれた。

バスに乗り込もうとすると、運転手が前方を指差して「あそこに歩いていけ」と言う。彼が指差した先にはいかにも国境といった感じのゲートを持つコンクリート製の建物がそびえ立っており、そのてっぺんには例の「鎌とハンマーのマーク」がでーんと鎮座している。うぎゃー!怖いよママー!


焦げそうなほど強い日差しの中、その建物へ向かって歩くにゃおんちゃん。気分はラスボスが待ち構える塔へ乗り込む勇者(ただしLv3のヘッポコ)である。距離にすれば50m程度なのだが、恐ろしく遠く感じた。
やがてゲートへたどり着き建物の中へ入ると、そこには窓口があった。中には男性の係官3名がいるのが見える。顔を引きつらせながら「こんにちはー」とあいさつすると、3人の中で一番偉そうな奥に立っていた中年の係官が「(英語で)お前、英語分かるか?」と尋ねてきた。おぉ、こいつはツイてる!と思いながら「Yes」と答えるが、次の瞬間「いや、待てよ?ツイてないかも・・・?」という考えが頭をよぎり、混乱する。

そんなにゃおんちゃんの混乱をよそに、その係官は流暢な英語で「パスポート出してー。それから5$・・・いや、6$払ってもらうよー」と愛想良く言う。ちょっと待て、そこでどうして言い直すんだ?事前に調べた情報で入国手数料?として5$を払わなくてはいけないことは知っていたが・・・いつから6$になった?
しかし、ここで余計なツッコミを入れて係官の機嫌を損ねようものなら、6$の手数料が50$になりかねないので、にっこり笑って5$札2枚を差し出す。係官は「1$札を持ってないか?」と言うが、1$札は持っていないので首を横に振る。すると、その係官は「これでいいか?」と20MDL札を差し出した。あの・・・お釣りは4$ですよね?20MDLって2$にもならないのですが・・・。
しかし、ここで文句を言っては「お前は入国させん。帰れ!」と言われかねないので、黙って20MDLを受け取る。これなんてプチボッタ?あぁ、何てセコい!

金を払うと、窓口に座っている若い係官が不慣れな手つきでパスポートの情報をPCに入力し、それが終わるとビザと入国スタンプの代わりなのだろうか?藁半紙のような質の悪い用紙に日付やら名前を記入し、それに例の「鎌とハンマーが描かれた国章」のスタンプを押した紙をくれた。
これで手続き終了。心配したバスの運転手が様子を見に来たが、手続きは至ってスムーズだった。微妙にボラれたことを除いて・・・。俺の3$、返せ・・・。

陽炎の中で不気味に揺らめく検問所は是非写真に撮りたかったが、国境で写真など撮ろうものならマジで身柄を拘束されかねんので断念。皆さんも止めてくださいよ、見つかったらタダじゃ済みませんから。



◆はるばる来たぜ、ティラスポール

あれほど怖れていた国境での手続きは拍子抜けするほどあっさりしたもので、予想外の出来事に困惑するにゃおんちゃんを乗せ、マルシュルートカは再び走り出した。
国境を過ぎると、ベンデール(Bender)はすぐそこ。沿ドニエストル領に入った途端に、看板の表記が全部ロシア語(キリル文字)になった。モルドバは皆ロシア語を喋ってるけど、看板の殆どはモルドバ語(ラテン文字)で書いてあるからねぇ。
ちなみに、ベンデールという名前はロシア語で、モルドバ語ではティギナ(Tighina)という。でも、にゃおんちゃんはティギナという表記を一度も見なかった。

沿ドニエストル共和国はドニエストル川東岸を領土とする国なのだが、このベンデールと周辺のいくつかの村だけは西岸に位置するにも関わらず沿ドニエストル側が実効支配している。つまり、ここは沿ドニエストル側が西岸に確保した橋頭堡となっている都市。もし再びドンパチが始まったら、ここが真っ先に戦場と化すに違いない。ま、ヘタレのモルドバ軍がここに駐留するロシア軍に蹴散らされて終わると思うが。
マルシュルートカはベンデールのバスターミナルで乗客を一人降ろすと、すぐに出発した。この街の中心部はティラスポールへ行く道路から外れたところにあるらしく、残念ながらベンデールの街は見えず。

やがてマルシュルートカはドニエストル川に架かる橋を渡る。橋のたもとには警備兵が立っており、さらに橋の入口には国境と同様にコンクリート製のバリケードが置かれている。この川がトランスニストリアの防衛線だからなぁ・・・。有事の際にはすぐに爆破できるよう、橋の下に爆弾が仕掛けてあったりして。
あまりに物々しい雰囲気にビビって写真も撮れず。


ドニエストル川を渡り田舎道を走ること数十分、左手に立派なサッカースタジアムが見えてきた。このスタジアムは『FCシェリフ』というチームのホーム・スタジアムで、ティラスポールの街の入口にある。おぉ、ついに来たぞ、ティラスポール!
やがて市街地に入ると、乗客が一斉に降りてしまい、にゃおんちゃんだけが残った。運転手が「お前、どこまで行くんだ?」と聞いてくるので、「バグザール(ロシア語で"駅"という意味)」と答える。ところが、その運転手は駅まで行かず、途中の銀行らしき建物の前で車を止めると「駅はすぐそこだから、あとは歩いて行け」と俺を放り出しやがった。

こっちは地図も持っていないというのに訳の分からん場所で放り出されて困り果てるが、事前にインターネットで少し調べてあったので、大まかには街のレイアウトが頭の中に入っている。まずは現在位置の把握を・・・ということで道路の表示を調べると「レーニン通り」と書いてある。
おぉ、すげー。バルト三国じゃ、今となっては絶対にお目にかかれない名前だ!でも、ソ連時代はどんな田舎にも「レーニン通り」と「レーニン広場」はあったそうだから、ロシアやベラルーシには、今でもたくさんあるんだろうなぁ。

レーニン通り
「レーニン通り」と書いてある。ちなみに、この道は駅と中心街を結ぶ通りです。



◆衝撃のティラスポール

ティラスポールを見るという目的はあれど、「○○博物館に行く」とか「○○公園に行く」といった具体的な目標は無いにゃおんちゃん。さてと、どこへ行こうか・・・。
周りを見渡すと、木々が生い茂っていて「緑が豊かなほのぼの地方都市」といった感じで、キシナウみたいなオンボロ高層アパートも無いし、ミンスクのような威圧感も無い。ただ、歩いてる人が少ないのでちょっと寂しい印象を受ける。この街の人口は15〜16万人程度で、キシナウに比べればずっと田舎なのだから仕方ないけど。

来る前は、スターリン様式の建物が立ち並ぶ無骨な街で、そこらじゅうにソ連を賛美するプロパガンダ看板が立ち並び、街の真ん中には巨大なレーニン像が鎮座してるんだろうなぁ・・・と思っていたが、あまりの普通ぶりに拍子抜けする。
ミンスクの街は覇気が全く感じられず、道行く人もまるでゾンビのように精気を感じさせない人ばかりで、漂う空気からして異様だった。いや、マジで。駅から一歩出た瞬間、「あー、この国は普通じゃないな」って分かったくらいだから。
それに比べると、若干の「寂れ感」はあるものの、このティラスポールのほのぼのした雰囲気は何だ。

街路樹がきれいなレーニン通り
これがレーニン通りの様子。街路樹に隠れているけど、両側にはちゃんと建物が建っている。


とりあえず、地元ではツェントラと呼ばれている街の中心部へ行くが、ロクに商店街すりゃありゃしない。何に使われているのかよく分からない中層のオフィス・ビルと高層アパートと公園ばかりだ。この街は本当に緑が多いので、一国の首都というより、大都市近郊のベッドタウンみたいな感じがする。

街をブラブラしていると、やがてあることに気づく。「建物がボロくない」のだ。
どのビルもアパートもきちんと手入れされているし、道路の状態も悪くない。歩道にブロックを敷く工事をしていたり、左官屋さんがコンクリートフェンスを補修をしていたりと、この街はちゃんと手入れされていることが分かった。ボロボロのキシナウとは全然違う。さらに、公園の芝生や街路樹は丁寧に刈り込まれており、草ぼうぼうのキシナウと大違い。花壇には綺麗に花が植えられており、ゴミ箱と化していたキシナウから見たら別世界。
「国民を脅しつけてやらせているのか?」と思ったりもしたが、緑豊かなティラスポールの街からはそんな圧政の臭いや人心の荒廃は感じられない。キエフのような経済的発展に基づく華やかさはどこにもなく・・・いや、それどころか金の匂いが全くしない街だが、だからといって貧乏臭いわけではない。


えー?てっきりベラルーシみたいな『ソビエト・テーマパーク』を想像していたのにー。つーか、非承認国家だからまともに貿易もできなくて、モルドバ以上に貧乏な国だと思っていたのにー。
ここ、ほんとに偽ソ連ですかー?レーニン像はどこですかー?揺らめく赤旗はどこですかー?「米帝の傀儡モルドバを倒せ」とか書いてある看板はどこですかー?

実はここ、ポーランドとかリトアニアの田舎町だったりしません?匂いがね、一緒なんですよ。
台湾や南朝鮮よりも穏やかだぞ、ここ。分断国家の両国と位置づけが違うのは分かってるけど、戦時下の国特有のプロパガンダの匂いが全然しない。どうなってるの?

ここがツェントラ
ここがツェントラ。店は少ないけど、きちんと手入れされていてとても綺麗。



【旅の情報:ティラスポール編その1】
・キシナウからベンデール/ティラスポール行きのバスはひっきりなしに走っている。不覚にもチケットを紛失したので運賃は分からない。20MDL程度だったと思う。
・にゃおんちゃんは問題なく入国できたが、国境でカツアゲされた人は大勢いるし、中には追い返された人もいる。こればっかりは「運」としか言いようが無い。
・5$払うのは賄賂ではなく正規の手数料の模様。にゃおんちゃんは6$と言われたが・・・。キャッシュでアメリカ・ドルかユーロを用意すること。お釣りなどまともにくれないので、小額紙幣を用意しておいたほうがいい。
・入国するとビザか入国スタンプの代わりになる小さな紙をくれる。失くすと出国時にややこしいことになるので、大事に保管すること。
・にゃおんちゃんは途中で放り出されたが、通常バスは駅前まで行く。ツェントラへ行くには駅から1番のマルシュルートカに乗る。運賃は1〜2ドニエストル・ルーブル程度だったと思う。


《つづく》

2007モルドバ・ウクライナ旅行記(その9)

◆教授の悪夢、再び

「こんな国、明日にでも出て行ってやる!」と思い、北ターミナルへバス時刻を調べに行くにゃおんちゃん。しかし、その北ターミナルへの行き方が分からない。地元の人に尋ねたところ、ここからマルシュルートカで行けるようなのだが、俺のつたないロシア語では理解できない。諦めてホテルに帰る。
いずれこの国を去るわけで、そのためにもバス時刻を調べなくてはいけないのだが、面倒だから明日考えよう。

ホテルに帰るとフロントに「教授が戻ってきたら連絡して」と頼み、部屋に戻って寝る。暑くて疲れたわい。


午後9時、フロントから電話が来たので一階へ下りると、教授がプンスカ怒りながら「散々だった。早く飲みに行こうぜ」と言う。しかし、その前に食事に行くらしいので、教授、長官、にゃおんちゃんの3人でタクシーに乗り込み、昨夜行ったレストランへ再び行く。
ウェイトレス達はにゃおんちゃんの顔を覚えていて「あんた達、また来たの?」と笑っているが、教授のお気に入りだったオクサナはいない。

メシを食いながら教授に首尾を聞くと、本当に散々だったらしい。「あいつらはバカだ!」と怒っている。何があったのかというと、まず適当なサウナを見つけられずキシナウ市内を散々走り回る羽目になって2時間以上無駄にする。さらに、やっとサウナを見つけたと思ったら、お膳立て係の警官がおねーちゃんを調達てきず、ブチ切れた教授は「お前らとの契約は無効だ!」と宣言して運転手と警官を置き去りにして帰ってきたのだという。「あいつらは何ひとつオーガナイズできないバカ野郎だ!」と怒る教授。
普通、場所とおねーちゃんを事前に確保してから案内するだろうに・・・。頭の悪そうな顔をした奴らだったが、ホントにバカだったんだな。教授、哀れ・・・。


メシを食いながら明日以降の予定を話し合う我々。教授達は明日11時にチェックアウトしてティラスポールへ移動するという。どこで調べてきたのか、「そういえば、インビテーション・レターが必要だって話、あれ本当だったわ。お前、よく知ってるな」と言う教授。
書類が不備なまま行くのってヤバくね?と忠告するが、「そんなもん、金で解決すりゃいい」と強気の教授。

一方、「お前はどうするんだ?俺達と一緒にティラスポールへ行かないか?」と言われたにゃおんちゃん。申し出はありがたいのだが、3泊分前払いしてるからねぇ。「もう一日ここに残って、田舎でも見に行こうかと思ってる」と話すと、「モルドバの田舎?俺達、ここに来るまでに散々見てきたけど何もねぇぞ?ロクなホテルもレストランも無い。いるのは家畜ばっかりだ」と笑われる。
うーん・・・それはそれでいいけどね。どうしようかねぇ・・・。とりあえずキシナウにはホントに何も無いことが分かった。明日は日帰りでどこか田舎へ行ってみようと思う。


食事を終えると、ホテルに帰って寝るという長官と別れ、教授と二人で再び「CITY」へ行った。例のセキュリティ・スタッフ達は、にゃおちんゃんを見ると再びおじぎをする。そんなに面白いか?
月曜日の夜なので店はガラガラ。しばらくすると人が増えてきたが、眠たくなったので帰ることにする。教授も帰ると言うので、二人でタクシーに乗ってホテルに戻る。午前2時半に帰還。



◆沿ドニエストルへの道〜予期せぬ幕開け

8月21日(火)
午前8時に目が覚める。時差ボケのせいだろうか、夜遊びしてるわりにはきちんと早起きしている。どういう訳かお湯が出ないので水シャワーを浴び、9時に外出。フロントで北ターミナルへの行き方を教えてもらい、行ってみることにする。
まだ朝早いというのにクソ暑い。マルシュルートカの中はまるでサウナ風呂で、せっかくシャワーを浴びたのにすぐに汗だくになってしまった。

汗をかきかきやって来たGara De Nord。ターミナルビルとプラットホームがあるだけで他には何も無いが、たくさんのバスと旅行者でごった返している。
ビルの中へ入りバスの経路を調べると・・・バルツィ(Bălţi)、ソロカ(Soroca)、オルヘイ(Orhei)などモルドバ北部へ向かうバスに加え、ウクライナのキエフやオデッサ行きのバスもある。

オデッサ行きのバスにはティラスポール経由とパランカ(Palanca)経由の2種類がある。パランカ経由のバスはモルドバの南端から直接ウクライナへ行くので、沿ドニエストル領を通らない。よーし、これだ!このバスを使えば悪名高き沿ドニエストル共和国の国境警備隊に怯えなくて済む。
所要時間は5時間程度。ティラスポール経由よりは時間がかかるようだが、それほど極端には違わない。

北ターミナル
ここが北ターミナル(Gara De Nord)。カッサ(窓口)、銀行、両替所などがこの中にある。


沿ドニエストル共和国領を通らずにオデッサへ行く方法を見つけてしまった以上、このままだとあの国に行かないままモルドバを去ることにもなりかねない。何せインビテーション・レターの入手が宙に浮いたままなので、行くに行けない。
レター無しでも10時間以内の滞在なら可能らしいので、日帰りで行くことは可能だが・・・となると、チャンスは今日しか無い。明日行くとなると、ホテルをチェックアウトするから荷物を担いであの国に行くことになる。荷物など狙われることはないだろうが、現金を持ち歩くことになるので悪徳国境警備隊の餌食になるやもしれぬ・・・。

今なら行ける。所持金は30USD程度、持ち物はデジカメのみ。よし、今日は沿ドニエストル共和国に行ってくることにする!



◆私が沿ドニエストルへ行く理由・・・何故なら、そこに沿ドニエストルがあるから

当初の段取りは全て吹っ飛び、書類も何も無いまま単身で乗り込むという予期せぬ形で行くことになった沿ドニエストル共和国。前日、アントネスクに電話番号を書いたメールを送ったが、未だ連絡は無い。どんな事情があったが知らないが、もはや奴に期待すべきではないだろう。
ここまで来てあの国に行かずに帰れるか!と並々ならぬ決意で中央ターミナルへ戻るが、腹が減ったので中央市場の外れにあるカフェでピザを食う。うーむ・・・まずい。

食事を終えると一目散にバスターミナルへ行き、ティラスポール行きのバスを探す。時刻表を見ると20〜30分間隔でひっきりなしに走っている。
ティラスポール行きのバスはすぐに見つかった。何故なら、運転手がバスの前で客引きのごとく「ティラスポール、ティラスポール」と連呼していたから。よし!と気合を入れて乗り込もうとすると、運転手に「ちょっと待て」と止められる。なんじゃい!
運転手は、にゃおんちゃんに「お前、モルドバのビザを持っているか?」と尋ねる。パスポートを見せて日本人はビザがいらないことを説明すると、ダメだ!ダメだ!と追い払おうとする。なじぇ〜?

運転手曰く、「モルドバのビザを持っていない奴はトランスニストリア(沿ドニエストル)に入国できん。国境で追い返される」。えー?トランスニストリアはモルドバから分離独立を主張してる国よ?どうしてモルドバ・ビザが入国に必要なんだ?運転手はにゃおんちゃんのそんな疑問に答えようともせず(答えられるわけもないのだが・・・)、俺を追い払おうとする。ムカーッ!
運転手と喧々諤々やっていると、別なおじさんがやって来て会話に加わった。つたないロシア語を必死に駆使して会話したところ、次の事実が判明。

・そのおじさんはマルシュルートカの運転手
・昨日、日本人を乗せてトランスニストリアへ行ったが、その日本人はインビテーション・レターが無いという理由で入国を拒否され、国境で追い返される羽目となった

なんだとーっ!インビテーション・レター無しでも短期滞在は可能じゃなかったのかー!
これだから後進国は嫌だ。対応した係官のさじ加減で天国か地獄か、だからな。
というか、あんな国に行きたがる物好きな日本人が同時期にここに来ていたことにも驚いた。


予期せぬ事実に狼狽するにゃおんちゃん。一時間ほどバスターミナルをウロウロして、どうするべきかを考える。入国拒否・・・鬼のような係官に怒鳴りつけられて検問所から追い出される自分の姿を想像して身震いする。怖いよ、ママー。
しかし、考えてみれば入国を拒否されるってことは、「帰れ!」と追い返されるだけ。身柄を拘束されるわけじゃないし、イチャモンつけられて金を巻き上げられたとしても所持金はたったの30$。考えてみれば、失うものなど無いのだ。
たとえ入国できないとしても、せっかくここまで来たのだから挑戦すべきだろう。入国拒否されたとしても、それはそれでネタになる。そう何度も経験できることじゃないからな。

うわー!なんてポジティヴな俺!いや、怖いもの知らずっていうか、ただのアホ?

今回の旅行は、いずれ行くであろうカフカス地方や中央アジア、そしてトランスニストリアと同じ非承認国家である『アブハジア』、『南オセチア』、『ナゴルノ・カラバフ』行きの予行演習も兼ねている。
比較的情勢が安定しているトランスニストリアへ行くのにビビっていては、世界中から承認されているにも関わらずトランスニストリア以上にヤバいカフカス諸国や中央アジアのスタン軍団、そしてその他の非承認国家に行くことなど夢のまた夢だ。この程度のことでビビってられるか。

そして12時、にゃおんちゃんを乗せた地獄行きティラスポール行きのマルシュルートカはキシナウを出発した。出発前にヘレンに電話して、今からトランスニストリアへ行ってくると伝えたところ、「あなたはどうしてあんな変な国に行きたがるの?」と呆れられる。いや、変な国だから行きたいんだよ。後で「健闘を祈る」というSMSが届く。
果たして、どのような運命が国境でにゃおんちゃんを待ち受けているのだろうか。


《つづく》

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