【黒猫ポンセの野望】「HEARTS OF IRON II」リプレイ(その20)
これまでの経過はこちら。
モスクワを陥落させ、戦争の勝利が見えたドイツ。さて、ポテンテはこれからどうする?
◆アンドレイ・ヴラソフの告白 - 1940年9月8日〜9月14日
テオドール・アイケ少将に殺されそうになっていたヤコブレフ青年を助けたポテンテがクレムリンに戻ると、ギュンター・フォン・クルーゲ上級大将が彼の元を尋ねてきた。ドイツ軍はモスクワ攻防戦の際に大量の赤軍将兵を捕虜としたが、その捕虜の中に彼への面会を希望する将校がいるのだという。
ポテンテは首をかしげた。
「はて?私は赤軍将校に知り合いはいないのだが・・・」
しかし、面会を断る理由も無いので、好奇心の赴くままにその将校に会ってみることにした。クレムリンの一室に設けられた面会室に足を踏み入れると、そこには牛乳瓶の底のような分厚いメガネをかけたロシア人将校が佇んでいた。まるで「キテレツ大百科」の勉三さんのようだ。
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あなたがポテンテ補佐官ですか?よく来てくれました。 私は元ソ連第2突撃軍司令官アンドレイ・ヴラソフ中将です。 |
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勉三さんですよね? |
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は?私の名前はヴラソフです。ヴ・ラ・ソ・フ!覚えていただけましたか? ロシアのニジニ・ノヴゴロド州出身ですから、山形弁は話せませんよ。 |
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勉三さんが山形県出身だって、どうして知ってるのさ・・・。 |
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キテレツの話はもう止めてください。私はあなたに大事なことを相談したいのだ。 |
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大事なこととは何ですか? |
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私、ヴラソフ中将と現在ドイツ軍の捕虜となっている元赤軍兵士80万人は、ドイツ軍と共に戦う用意があります。 |
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な、何ですって?80万人!そいつは大変だ!総統に報告しなくては! |
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お待ちください、ポテンテ補佐官。 確かに、私にはドイツ軍に協力する意思はあるが、それには条件があるのです。 |
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待遇に関することですか? |
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あなたは、私が自分の命が惜しくてドイツ軍に寝返ったと思っているのですか! 私は、自分の命など惜しくはないのです! |
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それでは、あなたの望みは何なのですか? |
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ロシアをボリシェヴィキから解放すること。私はスターリンの首を取りたいのです。 |
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あなたは赤軍の将校で、ついこの間までボリシェヴィキの一員として我が軍と戦っていたではありませんか。一体、どういう風の吹き回しですか? それに、そのようなことなら、私ではなくて軍部に相談したほうがよろしいのでは? |
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いや、あなたでなければダメなのですよ、ポテンテ補佐官。 「ローゼンベルク・ドクトリン」はあなた達の手によるものでしょう? |
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はい、私と、私の同志アルフレート・ローゼンベルク東方占領相が打ち出した政策です。 |
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私はボリシェヴィキを倒したいが、だからといって祖国ロシアをドイツに売り飛ばすつもりはありません。だから、本来であれば「スラブ民族は劣等民族」などと主張するヒトラーに協力できるわけがないのです。 |
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確かに。 |
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しかし、あなた達がいれば話は別だ。既に「ローゼンベルク・ドクトリン」によってウクライナやカフカスの独立が約束されたと聞いています。ドイツにあなた達のような人達がいるのなら、共に戦いロシアをボリシェヴィキの圧政から解放したいのです。 |
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その点について言えば、私達は同志となれる間柄でしょう。 しかし、ヴラソフ中将。私はあなたが何故ソ連という国を捨てるつもりになったのか、その点について疑問を感じているのです。 |
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私の家族を守るため。そして、私の贖罪のため・・・。 |
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家族を守る?誰があなたの家族の命を狙っているというのですか? |
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私はスターリンに疎まれていたのです。もし、モスクワから脱出することに成功しても、私も家族もスターリンに粛清されていたでしょう。 幸いなことに家族はまだ無事です。何としても助けなければ。 |
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それでは、贖罪とは? |
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私は貧しい農家に生まれました。それでも、父は身を削って働き、私を大学に行かせてくれました。そして、大学を出た私は農民達のために戦うことを決意し、ボリシェヴィキの掲げる理想を信じて赤軍に身を投じたのです。 しかし、スターリンの恐怖政治によって心ある人達は皆粛清され、でたらめな政策によって多くの農民が餓死しました。私は自分が誤っていたことに気づきました。彼らへの罪滅ぼしのため、私はボリシェヴィズムを打倒しなくてはならないのです。 |
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分かりました、ヴラソフ中将。今日から我々は同志だ。共に戦いましょう。 |
こうしてヴラソフはドイツ軍へ協力することとなったが、彼が望んでいた「ロシア解放軍」の結成についてはヒトラー総統の許可が下りず、参謀本部の諜報部門へ配属されて大規模な対ソ諜報網を立ち上げることとなった。
赤軍と戦うことが叶わなかったヴラソフが酷く落胆したため、ポテンテは国防軍のハインツ・グデーリアン中将とヴァルター・フォン・ブラウヒッチュ中将に協力を仰いだ。彼らもまたポテンテと同様に、「ロシア人民ではなく、共産主義こそが真の敵」と考えている将校だったからだ。しかし、国防軍の答は「外国人であるロシア人部隊の創設はSSの管轄となるため、我々は関与できない」というものであった。
ポテンテはヴラソフにSSを頼るよう進言したが、誠実な人柄のヴラソフはポテンテとSSが敵対していることを慮ってこれを断り、諜報の世界で祖国解放のために戦うことを決意した。
◆ハインリヒ・ヒムラーの罠 - 1940年9月15日〜9月27日
モスクワ陥落後、中央軍集団は周辺に展開する残存兵力の掃討作戦へと出発したが、ポテンテはモスクワに残り、占領政策に関する事務に忙殺されていた。そんな忙しい毎日が続く中、憧れのモスクワに来たポテンテは時間を捻出しては、彼を慕ってクレムリンを訪ねてきたヤコブレフ青年の案内で市内観光を楽しんだり、ウォッカを飲みながらヴラソフ中将とロシアの将来について語り合う日々を過ごしていた。
モスクワ周辺に展開していた主力部隊の壊滅によって北部戦線の赤軍は総崩れとなり、散発的に攻撃を仕掛けては撃退され、敗走を繰り返すばかりだった。9月21日には北方軍集団がレニングラードに到達。状況は南部戦線でも同様で、南方軍集団の別働隊パウル・ハウサー中将率いる武装SS装甲師団が9月28日にはスターリングラードを、11月5日にはブラウヒッチュ中将の歩兵師団がアゼルバイジャンのバクーを制圧。ドイツ軍は恐れていた冬将軍が来る前にバルバロッサ作戦で目標に掲げていた重要拠点の制圧はほぼ完了した。
モスクワ攻防が天王山となった独ソ戦は一気に結末へと向かいつつあった。
モスクワの曇天を眺めながら、ぼんやりとした理想を頭の中で具現化させることに悩んでいたポテンテだったが、そんな日々も長くは続かなかった。先日の作戦会議で突拍子もない戦略を掲げて将軍達を怒らせたヒトラー総統は、国防軍と太いパイプを持つポテンテの存在が再び必要となり、彼はタイフーン作戦が一段落するとヴォルフスシャンツェへと呼び戻されることになった。
その頃、ヴォルフスシャンツェの総統執務室では、誇大妄想狂と偏執狂が何やら密談を繰り広げていた。
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(偏執狂) 総統閣下、あの黒猫を呼び戻すという話は本当なのですか? |
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(誇大妄想狂) うむ、そうしようと思っている。 |
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せっかく東部戦線に追い払ったのに、どうしてそんなことを。 あいつは総統閣下に逆らったのですよ。 |
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私の作戦を理解しない国防軍の愚か者どもが、最近不穏な動きを見せている。 非常に腹立たしいが、独ソ戦が佳境に差し掛かっている今このときに国防軍と騒ぎを起こす訳にはいかないのだ。 |
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あいつはブロンベルク、フリッチュ、ルントシュテットなど国防軍の幹部と太いパイプを持っておりますからな。 |
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元はと言えば、お前とゲーリングのデブ野郎が、ブロンベルクとフリッチュを追い落とす陰謀に失敗したからこんなことになったのだ!他人事のように言うのは止めたまえ!あれさえなければ、今頃は私が国防軍総司令官を兼務していたのに! |
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チャンスはまた巡ってきますよ。しばらくお待ちください、総統。 |
ドイツへの帰還を命じられたポテンテは、モスクワから鉄道でレニングラードへ向かい、そこから船でダンツィヒへ移動するという経路を取ることになったため、ここぞとばかりにレニングラードでも観光をして遊び呆けていた。ある日、いつものように散々遊び呆けてホテルに戻ると、フロントに彼宛の電報が届いていた。
「総統からの"早く帰って来い"という催促か?」
ポテンテの予想に反し、電報はヒャルマー・シャハト国防相からのもので、次のように書かれていた。
SSトSDニ 注意セヨ 貴官ヲ巡リ 不穏ナ動キ アリ
1938年、国防軍を我が物にしようと企むヒトラー総統とヘルマン・ゲーリング国家元帥(当時は空軍総司令官)、そしてSS(親衛隊)の権力拡大を企むハインリヒ・ヒムラーSS長官が、ブロンベルク元帥とフリッチュ総司令官を失脚させようと謀略を仕組んだ(ブロンベルク=フリッチュ罷免騒動)ことがあった。
彼らの突出を快く思わないポテンテと国防軍によって陰謀は阻止されたが、それ以来ポテンテはヒムラー率いるSSと、ヒムラーの部下ラインハルト・ハイドリヒ率いる国家保安本部(SDはこの組織の一部)から付け狙われ、護衛無しでは外出できない身分となっていたのだ。
ポテンテは受け取った電報を一瞥すると、細かく破いてゴミ箱に放り込み、うんざりした表情を浮かべてつぶやいた。
「ヒムラーとハイドリヒの野郎がまた何か企んでいやがるな?」
≪つづく≫






